もしかして起立性調節障害(OD)? 思春期になりやすい「起きられない病気」とは
取材
2017年06月14日
朝が弱くてなかなか起きられない。平熱だけどすぐに体調を崩してしまう。
そんな子どもに対し、悪気がないとは分かっていても、頑張りが足りないのでは? 学校に行かない、すぐに休んでしまうのは甘えているからでは? と悩まれる親御さんもいるのではないでしょうか。
しかしその不調、もしかすると「起立性調節障害」という病気かもしれません。
今回は、「起立性調節障害(OD)」に詳しい医師・森下克也先生にお話を伺いました。
森下克也
医学博士、もりしたクリニック院長。久留米大学医学部卒業後、浜松医科大学心療内科にて、漢方と心療内科の研鑽を積む。その後、浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院診療内科部長を経て現職に就任。
著書に、『うちの子が、「朝、起きられない」にはワケがある』(メディカルトリビューン)、『「月曜日の朝がつらい」と思ったら読む本』(中経出版) 等がある。
【リンク】もりしたクリニック
起立性調節障害の問題は身体だけではないかも
──起立性調節障害はどういった病気なのでしょうか?
森下「一般的には、動悸やめまいが頻発し、長時間立つことや、朝起きることができない病気と言われています。これは、心臓から血液の押し出しが弱くなり、身体の下の方に血がたまったり、血液のめぐりが悪くなったりするために起こります。
ただ、こう言うと、血圧が低いことが症状の根本のように思われがちですが、起立性調節障害は自律神経機能の問題なのです。だから、動悸やめまい以外でも起立性調節障害だと診断する場合もありますね。
例えば、腸に分布してる自律神経に影響が出れば胃腸が悪くなったり、女の子であれば生理不順が起きたりするんですが、これもめまいなどがなくても条件次第で起立性調節障害と診断しています」
──なるほど。自律神経の問題から、身体にさまざまな不調がでる病気なんですね。
森下「実はそれだけではなく、自律神経はストレスの影響を受けやすいこともあり、心の問題が大きく影響している場合が多いんですよ。
もちろん、心はあまり関係なくて、単純に血圧が低いとか、なんらかの感染症の後遺症として起きてくる場合もありますけどね。
このように、起立性調節障害と一言に言っても、原因も症状も十人十色なので、その多様性に合わせた対応が必要な病気なんです。ただ、今はまだ、小児科であれば身体の問題として、精神科では心の問題としてしか診断されない場合は多いのですが」
──心の問題を抱えている子の方が多いものなのでしょうか?
森下「そうですね、多いです。でも、心が影響していることがまだ浸透していないためか、親御さんの中にも、起立性調節障害が身体だけの問題だと信じ込まれている方は多いです。自分の子どもに心の問題が介在していると認めるのは難しい部分もあるかもしれませんが、治療のためにも納得してもらう必要があるので、しっかり説明するようにしています」
──心の問題と身体の問題、どちらも認めていくことが大切なんですね。起立性調節障害は中高生で起きやすいと言われますが、自律神経が未成熟であり、精神的にも多感、ということもあり中高生で起きやすいのでしょうか。
森下「年齢的には小学生から増えてきて、中学1年生~高校2年生くらいが一番起きやすいと思います。ただ、20歳になるくらいまでには、ほとんどの方が良くなりますよ」
起立性調節障害の検査って何をするの?
──どうやって起立性調節障害だと診断するのでしょうか?
森下「小児心身学会というところが作った診断ガイドラインがあります。基本的には、このガイドラインに沿って、座ったり立ったりした状態で血圧を測って、そのパターンから4つのタイプに分けて診断しています。でも、血圧のパターンに当てはまらなくても、起立性調節障害と診断し、治療している子も多くいます」
── 他の判断指標はどんなものがあるのですか。
森下「もともと大国教授という方が起立性調節障害を日本で広めたのですが、その方が診断するためのチェックリストを作っています。なので、それを参考に総合的に判断していますね」
大国教授が作成したという起立性調節障害の判断基準
「日誌」と「運動」が治療に役立つ?
──治療はどんな風に行うか教えてください。
森下「身体は自律神経の問題なので、自律神経を安定させる薬と、動悸・下痢・腹痛などの表面的な不調への薬を処方します。心の問題は、環境調整や、本人への心理療法のほか、親御さんと対話をしたり、精神を落ち着かせる漢方薬を処方したりします。
その他には、睡眠のリズムが乱れていることが圧倒的に多いので、睡眠リズムを作っていきます。睡眠薬を使うこともありますし、睡眠時間がバラバラになってるのをコントロールするために、睡眠日誌をつけてもらうこともありますね。
昼夜逆転してる人でも、とりあえず時間を固定させていき、睡眠時間も8時間~10時間くらい寝れるように調整してもらっています」
もりしたクリニックで患者さんに記載してもらっている睡眠日誌。睡眠時間がどれだけ不安定になってるかを自覚するためにも良いのだとか。
──家庭では他にどんなことができますか?
森下「自律神経を鍛えるための、チルトトレーニングですね。壁を背にしてしばらく立っているという方法があります」
──え、立っているだけでいいんですか?
森下「意外かもしれませんが、めまいやだるさからできない場合も多いんですよ。でも立つという負荷に、自律神経が適応しようとして鍛えられます。あとは運動ですね。体調が悪いと寝ているだけになり、体調がもっと悪くなってきますから。それに、やらないのは行動パターンの問題でもあるんです。大事なのはそのパターンを変えていくこと。ちょっと辛いけどやってみようっていうことの繰り返しが大切なんです」
──でも、身体や心が弱っている中で、運動をやれと言われても更に辛くなってしまいそうな気がします……。
森下「そうですね。ですから、上から『やれ!』と言うのではなく、運動が必要なことに本人に気づいてもらうために、同じ目線で一緒に考えるようにしており、親御さんにもそう伝えています。
もちろん、これですぐに良くなるわけではありません。明日学校に行けるようになることはもちろん大切ですが、それと同等、いやそれ以上に、長い目で見てストレス耐性をつけたり、頑張れる原動力が育まれたりすることも大切なんです。
だから、親御さんも種まきのような感覚で語りかけて欲しい、と伝えていますね」
──長い目で対応していく必要があるんですね。起立性調節障害で学校生活に影響が出てしまう場合もあると思いますが、どんな風に対応してもらえばいいのでしょうか?
森下「居心地のいい場所を確保してもらうことですね。保健室とか別室を用意してもらうとか、教室でも遅刻したり早退したりしても、暖かく迎えてもらえる環境を整ってるといいでしょうね」
まとめ
起立性調節障害は、身体の問題と心の問題、多様な症状が絡んでいるなど複雑な病気というお話でした。
本人だけ、薬だけ、環境だけ、と何か1つを対策するだけではなく、親御さんや学校、心理療法なども含めた多様なアプローチで解決していくのが、結局は一番の近道になるのかもしれません。気になる症状があれば、「甘えてるだけ?」と思っても、まずは小児科や心療内科に相談してみてはいかがでしょうか。
このコラムの著者
きたざわあいこ
株式会社クリスク ライター
北海道出身。中学時代に約2年間いじめにあい不登校になりかける。高校では放送部に熱中し、その後大学へと進学。上京してはじめて、学校以外の居場所や立場の違う人と接し、コミュニケーションについて考えるように。現在は自分の経験を活かし、子供の悩みや進学に関する悩みについての記事を執筆。
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