【心理学者の相談室】子どもに自信をつけさせたい。どうすればいいの?
取材
2017年04月10日
失敗することがあっても、自信を持って何事も取り組んで欲しい。
多くの親は、子どもに対しこう思うのではないでしょうか。しかし、自分に自信を持てずに苦しんでしまう子がいるのも事実です。
そんな「子の自信」についての悩みが、不登校サポートナビのアンケートに寄せられました。
子ども自身は高校進学をしたいようですが、学力がなく、本人も自分に自信がないので全てに諦めが見られます。どこから手をつけたらよいか途方にくれてます。どうしたらよいのでしょうか。(中学2年生の親)
※個人の特定を防ぐため一部編集を加えております
果たして「子の自信」に対して親ができることって何なのでしょうか? 今回は、発達心理学を研究する渡辺弥生先生に回答頂きました。
渡辺弥生
法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。子どもの社会性や感情の発達について研究。子どもたちの問題行動への関わり方や解決方法についてプログラムを実践中。主著に「子どもの10歳の壁とは何か(光文社)」「親子のためのソーシャルスキル(サイエンス社)」など。
【リンク】法政大学 文学部 心理学科 渡辺弥生研究室
自信喪失が無気力になるしくみ
そもそも、自信とはなんでしょう?
中学生の自信につながる3大領域は、勉強や運動、そして人間関係です。勉強、あるいは運動が得意、もしくは、友達に人気があると自信を持ちやすいものです。その領域で成功し続けることができれば、自信は保たれるでしょう。しかし、できるものが少なかったり失敗が続いたりすれば「また上手くいかなかった」と感じ、自信は揺らぎ、失われていきます。
人は、何か失敗したときに、失敗の原因を考える傾向があります。その原因は、およそ4つに分類することができます(原因帰属理論)。
一般に、自信が持てない子や無気力になる子は、失敗した時に能力のせいにする子が多い傾向があります。
能力のせいにするというのは「自分に原因」があると考え、かつ「安定したもの」のせいにするため「自分はダメだ、だから勉強しても意味がない、何をやってもしかたがない」という考えになりがちです。
「頑張れ」というだけではダメ 親はどう関わればいいの?
こうして自信を失った子に、「頑張れ」と言う大人は多いと思いますが、この「頑張れ!」は良い言葉掛けでしょうか。
頑張れは、頑張ればできるぞ、という意味です。上の表で考えると、能力のせいではなく、原因は努力不足にあるから頑張りなさい、と言っていることになります。自分次第で変えることが可能なんだよと励ましている点で、悪い言葉掛けではないと言えるでしょう。
しかし、この「頑張れ」の言葉掛けは大きな落とし穴があります。
例えば、子どもが「頑張れ」と励まされて、頑張ったとします。しかし、頑張っても頑張っても失敗したらどうなるでしょう。そう、頑張るだけで自信がつくわけではありません。頑張っても失敗ばかりだと、やはり「能力」がない、と思い込み、再び無気力になります(学習性無力感)。
頑張って、成功して、達成感を得てはじめて自信に繋がります。だから、頑張れと励ますだけではなく、同時に『成功体験』も与えてあげることが必要なのです。
成功体験は誰でも持てる!
ただ、「成功して欲しいけど成功しないんだからどうしたらいいの?」「親だけがやる気になっている気がする」と親御さんは思うかもしれません。
でも、本当は誰でも成功できるんです。成功できないのは、目標設定が誤っているからではないでしょうか。
例えばテストがいつも30点台なのに100点を目標にしても達成するのは難しいでしょう。でも頑張れば到達しそうな40点を目指せば、頑張り次第で到達可能性は高くなります。
その子の実力をしっかり見て、努力すれば到達できそうなところを目標にすることがポイントです。そして、子どもが頑張って目標に到達したら「頑張ったらできたね!」と声をかけることで自信も徐々についてくるでしょう。次は、45点を目指すなど適切な目標を立て、頑張れば成功するという経験を重ねて行きましょう(スモールステップ)。
無気力が進んでいる状態からは、どうしたらよいのか?
「何をやってもダメだ」と思ってる子には、こんな対応法があります。
興味のあるものや、ある程度できているものを一緒に探すことからはじめてみるのです。
例えば勉強に自信がない、嫌いだと言っても、全てが苦手とは限りません。国語だけをとっても、読む、朗読する、創作する、書道、聞くなど色々な領域があります。読むといっても、小説ではなく詩を読むのが好きかもしれません。テストがダメでも、朗読は好きかもしれない。
そう考えると、全部がダメなんじゃなくて、意外とこれはできる・好き、というものがたくさん見つかるかもしれません。
子どもは視野が狭くなっていることが多いので、自分でも気づいていない興味や好きを、親が一緒に探してあげると良いと思います。
「そもそもの自信」をつけさせるには?
生徒と接しているとたまに思うのですが、「ここに存在していい人間なんだ」という「そもそもの自信」を持てていない子が多いように感じています。
そういった子は、「条件付きの自尊心」しか持っていない場合が多いのかもしれません。
条件付きの自尊心とは「◯◯ができる自分は価値があるけど、◯◯が失われた自分はダメな子」というような考えです。そのため、頑張ることに疲れてしまい何も出来なくなったとき、この条件付きの自尊心の場合、「こんな自分は自分じゃない」「親からも好かれない」と自己嫌悪になってしまう可能性が高かったり、親に見捨てられる不安を感じたりします。
良い子でなければ、良い点をとらなければ、親に認めてもらえないのでは、という不安を強く感じるのです。
子どもがテストで良い点を取るなど、なにか良いことがあれば「すごい」と褒めるけれど、そうでない場合は叱ってしまったり「もっと頑張らなきゃ」と言ったりする親御さんは多いのではないでしょうか。
これが繰り返される中で子どもは、良い点を取る自分は価値があるけれど、そうじゃなければ価値がない、というような不安を持ってしまうこともあるのです。
そう感じさせないために、親ができることはなんでしょうか?
それは「なんにもできなくても、生きててくれて嬉しいんだよ」というメッセージを、普段の何気ないときから伝えておくことです。今こうして一緒に住んでいて嬉しいとか、やっぱり家族で過ごせるのが一番嬉しいとか、根本的に大切なメッセージを伝えておくんです。
すると、本当にダメなときでも、お母さんやお父さんはそんな自分でも必ず受け入れてくれる。自分らしい部分を受け入れてくれてる。と安心することができ、強い自信にもつながってきます。
あなたがそこにいるだけで嬉しい。そう言葉をかけられて嫌な気持ちになる人はいませんよね。
編集後記
「頑張ることが当たり前」となってしまうと、頑張れない自分はダメな自分と思ってしまいがち。そこで「頑張れただけでも自分ってすごいじゃん」「失敗から学ぶことも多い」と思えれば、少しずつ自信もついてくるのかもしれませんね。
自信がないとPerfectを求めがちですが、誰もが納得するPerfectはありません。Good enough(まぁまぁ良いじゃん、これもOK)くらいを目指して、色んなことを少しずつ試してみてほしいと思います。
このコラムの著者
きたざわあいこ
株式会社クリスク ライター
北海道出身。中学時代に約2年間いじめにあい不登校になりかける。高校では放送部に熱中し、その後大学へと進学。上京してはじめて、学校以外の居場所や立場の違う人と接し、コミュニケーションについて考えるように。現在は自分の経験を活かし、子供の悩みや進学に関する悩みについての記事を執筆。
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